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この記憶をどうしたらいいのだろうか。
タッ、タッ、タッ、タッ、
心とは裏腹に、軽快に足を動かして続ける。彼女は、いつからか池の上を走っているような錯覚に囚われる。もちろんそんなことができるわけがない。
でも…と彼女は考える。私は、今、どこを走っているのだろう。このアスファルトが現実ではなく、不安定な蓮の葉の上を走っているかもしれない。親指姫のようにカエルに追われながら、命からがら逃げているのかもしれない。時々、この葉っぱから足を踏み外したら、暗い沼に飲み込まれるのではないかとさえ思えてくる。
だれか、助けて……でも、誰が?
タッ、タッ、タッ、タッ
軽快に足を動かしている。
タッ、タッ、タッ、タッ
彼女はロボットのように、無機質に、ただ、ただ走る。
すぐに、折り返しの公園が見えてきた。そこは小さな池があって、木々が、うっそうと生い茂る、昔ながらの公園だ。蓮の深い緑色が、パレットに乗せられた絵の具のように、不規則に水面を覆っている。池の淵の遊歩道を回りながら、考え始めるのだった。母親を信じられないなんて、どうかしてる。母は優しいし、暖かい。では、なぜ?
半周、回り終えて、向きが変わる。
タッ、タッ、タッ、タッ
元来た道を逆にたどるように走る。
タッ、タッ、タッ、タッ
なぜ、母は私を殺そうとしたのだろうか?
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