第5章 隠された記憶

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 紫織がひやむぎをすすりながら 「お母さん」と呼んだ。 「なあに?」と、母は口をもぐもぐしながら応える。 紫織は、一度箸を置いて顔をあげると、おしぼりで口をぬぐった。母の顔を真剣に見つめ、 「私を産んでくれて、ありがとう」と言った。  母は、食べる手を止めようとせず、紫織と目を合わせないまま 「うふふ。どういたしまして」と明るく応える。  母は、もう一口ひやむぎを食べてから、やっぱり紫織の方を見ないまま、控えめな声で付け加えた。 「こちらこそ、生まれてきてくれて、ありがとう。紫織……」                    < 完 >
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