河野。

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河野。

今日のステージは 僕の好きでいいと 翔くんに言われた。 バラード3曲に決めた。 『b-moon』のステージは いつも最後だ。 翔くんと駿くんの 仕事の都合らしい。 最初に『4's plus』の演奏が始まる。 一般客が入らない 2階からステージを見た。 河野の姿が真下に見えた。 河野は ステージから一番遠い 壁際に寄りかかっていた。 ミキの格好をしていて 『僕』だなんて わからないだろうけど 河野の近くに行きたかった。 僕は階段を降りて 河野の近くに寄る。 河野が僕に気付いた。 『ミキ』を見ていると直ぐに 分かってしまった。 それがちょっぴり淋しかった。 「姫?」 「ん? ミキだよ?」 いつもより少し高い声で答えた。 「あっ あの ……」 『4's plus』の一曲目が丁度終わり 他の客が僕に気が付き 一気に囲まれてしまった。 「みんな、『4's plus』の演奏中だよ? 応援しようよ?」 僕が叫んでも聞いてくれない……。 みんなが僕に触ろうとする。 ……コワイ。 「姫、コッチ。」 河野に抱えられてスタッフルームへ続く扉に 逃げ込んだ。 「姫、大丈夫?」 「……ゴメン。僕……僕のせいで…」 「きっと大丈夫だよ? 『4's plus』は大丈夫。」 「でも……」 「姫、ゴメン。」 河野は僕を抱き締めた。 「ファンてわかってても怖かったよな? みんな姫が大好きなんだよ? 姫はステージの上でキラキラして?」 僕の怖かった気持ちをわかってもらえて 力が抜けて震えが止まらなくなった。 河野は 「大丈夫だよ」って 繰り返し僕の頭を撫でてくれた。 落ち着いてくると ステージの盛り上がる声が聞こえてきた。 「ほらっ、 大丈夫だったでしょ?」 そう言って河野はニッコリ笑った。 僕もつられて笑った。 「姫、今夜歌う?」 僕は頷いた。 「俺、姫の声スゲェ好き。 楽しみにしてるね。」 「……うん。頑張る……。」 僕は小さく呟いた。 河野は 「じゃあ」って 客席に戻って行った。
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