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居場所。
ツラくて
スタジオから飛び出し
駅のトイレで着替えた。
でも
僕の居場所なんてどこにもなかった。
郁弥が僕を見つけてくれるかもしれない……
そんな気持ちで
いつも郁弥と行くラブホの近くまで来た。
一人で入れるはずもなく
ホテルの近くの公園のベンチに座った。
公園に植えられた桜が散り始めていた。
街灯に照らされ風に舞う花びらは
幻想的でとてもキレイだった。
どのくらいベンチに座っていただろう。
春になったとは言え
さすがに冷えてきた。
いくら待ってもイクが来るわけない。
だって僕は逃げてきたんだから。
僕がココにいるなんて知らないんだから。
どう考えても
どうにもならなくて
寒くて
漫喫かカラオケにでも移動しようと
立ち上がろうとした。
「いくら?」
僕の後ろから声がした。
「えっ? だれ?」
「ねぇ 君、いくら?」
見上げる程の背の高いサラリーマン風の
男が僕の後ろに立っていた。
「君なら 好きなだけ払うよ?
寒いから早く行こう。」
そう言って男は左手で僕を抱え
右手で僕のキャリーバックを引いて
歩き出した。
「あっ あの あなた誰ですか?
どこに行くんですか?」
「ほらっ行くよ? 寒いだろ?」
僕の質問に男は答えてくれなかった。
見慣れた入り口。
いつも郁弥と来るラブホ。
僕は
この男が
僕を買おうとしている事にようやく
気がついた。
「僕、ココに入るつもりなんてありません。
帰ります。」
男からキャリーバックを取り
帰ろうとしたら
男は無理やりホテルの入り口に
僕を引っ張り込んだ。
抵抗する僕に
殴りかかった……。
僕の叫び声と
大きな物音で
ラブホの従業員が飛び出してきた。
「君、大丈夫?
えっ 君いくつ?」
「……15。」
サラリーマン風の男は
真っ青になった。
「警察に連絡しようか?」
「僕帰ります……」
ラブホから走って逃げた。
イク
イク
イク
怖いよ
助けてよ
郁弥。
自分から逃げ出したのに
郁弥に甘えたくて
郁弥に抱かれたくて
仕方なかった。
辿り着いた場所は
河野のアパートだった。
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