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――運命ってなんだろう。
片桐大樹の世界は、真っ白な病室だ。
重度の心臓疾患のため、生まれた時に、長く生きられないと宣告を受けた。
だが、大樹は悪運だけは強かった。
生まれたばかりなのに病院で過ごすことになったお陰で、なんと生まれてからたった三日で、運命の番と出会ったのだ。
大樹は覚えていないけれど、両親は不幸中の幸いだったと、今でも涙混じりに語る。
その相手は、その大病院の院長の息子で、当時まだ十五歳の少年だった。天才的な頭脳を持つアルファの彼は、すぐに親にかけあって大樹を保護した。
病気の治療代に頭を抱えていた両親に了解を得て、費用は全て彼の家が持ち、手厚い治療も施された。
以来、彼は大樹を延命させる為、医師の道をこころざし、今は若き医師として働いている。
まだ十歳である大樹は、話を聞いてもよく理解できないが、彼がすごいのは親や看護師の雑談から分かっていた。
「大樹、調子はどう?」
窓の外を眺めていると、ノックの音がして、考えていた婚約者の男が顔を出した。
さらりとした黒髪と、鋭い黒の目。自分にも他人にも厳しい彼は、他者には冷たい顔を見せることが多い。
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