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「それこそ違う。お前は賢くて、優しい。いつも私を励ましてくれる。病気の身なのに、生きるために戦っている姿を見ていると、私も強くなれる。でなければこの業界ではとっくに潰されていた。お前のお陰だ」
大樹は首を横に振る。
「違うんだ。僕こそ、真さんのお陰なんだ。あなたがそんなふうだから、僕も頑張って生きようって思えるんだ。未来を信じようって……。怖いのは夢を見られないことだよ。真さんは僕に希望をくれたんだ。それってすごいことだよ」
気付けば互いに涙している。
真は厳しげな顔をふっとやわらかくして、微笑んだ。
「運命の恋には、誰もかなわないってことだな」
そして少し照れたように、悪戯っぽく言って、大樹の頭に口付けた。
そして、大樹は二十歳の誕生日を迎えた。
病室の窓から、中庭を眺める。
桜の花が満開で、時折ひらりと風に花弁が飛ばされていく。
開け放した扉から、真が顔を出した。まとめ終えた荷物の入った鞄を持ち上げ、大樹に声をかける。
「大樹、行くぞ」
「ありがとう、真さん」
いつもと同じように微笑んで、大樹は二十年過ごした病室を後にする。
胸には生まれ持ったものではなく、人工の心臓を抱え、運命の人と新たな生活を送るため、一歩を踏み出した。
……終わり。
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