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しかし、神学校にいったハンスは環境に馴染めず神経症が悪化し落ちていくが、逃げ場はない。
なぜならそれ以外の生き方を知らないから……。
おれはハンスなのかもしれない……。
早く続きを見ないと。
考えるのも大事だが、勉強も大事。
さもないと車輪の下じきになってしまうからな。
六車が俯いていると、桐花が声をかける。
「お兄ちゃん!? 大丈夫?」
「あぁ、悪い。最近は考え事するとこうなるんだ。そうだ、次に会う時には、この本を貸すよ」
「ありがとう! ヘッセはまだ読んだ事ないんだ」
「そうか」
「ねぇ、お兄ちゃん。あたし思うの……またあの人に会えるわ」
そう言うと、桐花は送られていった。
走っていく車を見ながら、六車は思う。
……桐花が気になった奴に、手を出す癖を親父が知ったら大変だ。
しかし、おれは止めない。
止める必要もない。
桐花の母親は男好きな女だったと聞いた。
そして桐野の親父のサディスティックな性格も、彼女は受け継いでいる。
それが桐花だ。おれがどうこうする必要はない。
そういえば、桐花は親父をキモイと言う。
親父は口には出さないが、かなり傷ついているみたいだ。
たしかに客観的にみて、若い女のキモイという言葉には、男の精神を粉砕する、なんとも言えない破壊力がある。
……おれが言われたらどうなるのだろうか?
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