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金網のリングで向かい合うふたり。
試合は六車が仕掛け、東が避けるのくりかえし。
そんな攻防が10分近く続いていた。
「マエガミは思っていたより、優秀なのかもしれない……」
八尋はふたりの戦いを見ながらつぶやいた。
「えっ!? どうしてですか? ただ逃げているだけに見えますけど」
「九能さん、ぼくは六車くんの試合はすべて見ていますが、彼が思い通りにできていないのは、初めて見ます」
「八尋くんが試合前にふたりを会わせたのまずかった……って事じゃないですかね。復讐屋さんは、ほら、考え込む性質だから。なにかを吹き込まれたのでしょう」
やれやれといった表情の九能。
八尋はそんな事は気にせずに話を続ける。
「身体を使うスポーツなんかもそうですが、特に格闘技では、心理戦は弱い奴がやるものだと考える人間が多いですよね。まぁ、ぼくはそう思いませんが」
「メンタルの話ですね。それも入れて優秀と言う事ですか?」
「よく見てください。六車くんが正面からタックルで身体を掴むと、マエガミは体勢を低くして避けている。ああすると相手の腕から身体が抜けやすくなるんですよ」
八尋は、リング上の東を指で指しながら説明する。
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