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「次に腕を掴まれた時は、掴まれていない方の手と掴まれている手で輪を作り、全身で回転して振りほどく。こうすると腕が抜ける。それに相手のアゴや鼻の下、のどぼとけを狙って振り払っている。きっと大した力は入れてないでしょ。マエガミは身体の運転がとてもうまい」
「そう言われてみると、きれいに逃げてますね」
「ぼくは本で読んで知っているだけですが、口で言うほど簡単ではないはずです」
八尋が感心していると、九能が何かに気が付いたように言う。
「見方を変えて見ると、マエガミがやっているのは護身術ですね」
「そう、武術ではなく、技術」
「でも、負けなくても勝てないのでは助かりませんよ」
「そこは、福富 優一がなにか考えているのでは?」
このまま膠着状態が続くと思われたが、やはり六車の方が地力で勝っていた。
東がバテ始めている。
六車のパンチはガードの上からでも十分効いていたのだ。
クリーンヒットしなくても、自分のペースを乱さず、決して焦らなかったのは、六車が優秀な証拠であった。
六車が言う。
「動きが鈍ってきたな」
東は相当疲労していた。
一発でも喰らったら、一度でもしっかり掴まれたら、それで戦闘不能にされる。
たとえ東が護身術に長けていても圧倒的な体格差はうめれない。
六車は聞く。
「反撃しないのか?」
「なんども言うけど、六車くんと戦えないよ」
「……わかった。それであんただけが死ぬならいいが、福富も死ぬ……それでいいのか?」
六車は考えていた。
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