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誰も想像してなかった。
誰もが動けずにいた。
その場にいる誰もがありえないと驚愕した。
まさか福富が!?
これは試合に入って来るわけがないと……!?
ドロップキックで六車の巨体を吹き飛ばした後、リング中央に立ち上がった福富は乱れたジャケットを直していた。
スーツなのにリングに上がった姿が、なぜが様になる。
福富はゆっくり東を抱えて端に運ぶ。
血反吐を吐き続ける東に、顔を叩き声をかけた。
すぐに気がついたが、もう動けそうにない。
福富は言う。
「お前は手を出さず、逃げる事に全力を尽くすと思っていたよ。もう十分だ。ゆっくり休んでろ」
「がはっ。うぅ、福富くん……」
「しかし派手にやられたな。これでこの後に焼肉食えるか?」
血まみれの東を心配していると、六車が立ち上がってきた。
呼吸は乱れ、肩で息をしている。
六車はかなり消耗していた。
休み無く攻め続け、急所、噛み付き、耳引き、目潰しを警戒しながら、逃げの一手の相手を追い詰める作戦を考えて戦うことに肉体も精神も限界にきていた。
もう終わると思っていた時に喰らった不意打ち……。
その驚きも六車を消耗させた。
桐野が叫ぶ。
「福富!! てめぇ!! 卑怯だぞ」
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