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今度は手を止めて、間合いを取りながら、静かに言う。
「しかし、命をかけた戦いならおれの方が強い。お前はこれまで復讐屋として、リングに上がる処刑人として、そして人間を狩る立場として相手を仕留めてきたが、こうやって対峙するのは初めてだろう? つまり、今まではお前にとってフェアだったという事だ」
スーツにできたシワを直しながら、福富は続ける。
「意味はわかるか? 技と力だけで勝てるのはスポーツなんだよ。“殺しは慣れていても殺し合いは初めてだろ?”それでは勝てない。このまま、続けるならお前は負ける」
福富はわざわざ長い話をした。
六車は考える。
……子供の頃からおれは強かった。
誰もおれに勝てなかった。
昔、桐野の親父にやられたように、集団で銃でも使われない限り負ける事はないと思っていた。
本は読むか?
こいつは言った。
おれは読む。
この男とおれの差はなんだ?
六車は、まるで全身を脳みそにするように考えを巡らせた。
そして答えを出す。
…………そうか……わかった。
「福富……」
声をかけられ、六車を見ると福富は驚く。
そこにいたのは、追い詰められた紳士ではなかった。
顔からは感情が消え、呼吸を深く吸い、身体の固さはなくなり、目つきだけが鋭くなる。
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