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「つかんでの間接、投げもあるよ!!」
「はいよ」
六車がまた宙を舞い蹴りを仕掛けてくる。
そして福富の予想通りに距離はつめられた。
六車の蹴りは避けた後に軌道を変えて飛んでくる。
軌道の読めない攻撃が、徐々に福富にヒットしはじめた。
荒川から空手の基本を教えてもらい、それを自分なりの喧嘩術で鍛えてきた。
週5日はジムに行き、自宅でもトレーニング器具で本格的にやっているが、それでも、まともにぶつかれば六車の方が強い。
追い詰められた福富は言う。
「お前、息を切らせてたのに、なんでそんなタフなんだ」
「もう小細工はないのか?」
「どうかな? お前、本読むんだよな。今読んでいるのは?」
福富は聞くが、六車は答えない。
身体を回転させて近づき、そのまま足を上から振り落とすと肩口に当たり、福富が崩れ落ちる。
首付近に激痛が走る。
鎖骨が折れたのがわかったが、腰を落としながらも、なんとか転がり後ろに下がる。
六車はさっきの質問に答えた。
「『車輪の下』だ」
「……あ、そう」
痛みで表情が少し歪む福富を見て、六車は続ける。
「読んでいて知った事なんだが、ドイツ語で落ちこぼれることを表す慣用句は……」
「車輪の下じきになってしまう……だろ」
六車の言葉を遮って言う福富。
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