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「同じ本を読むなら文庫本の方が価格も安いですし、持ち運びに便利じゃありませんか? あるいは電子書籍とか」
「文庫本や電子書籍を否定するわけではないのですが、ハ-ドカバーが好きなんですよ。たしかに小さくて楽ですけど……そういえば、こういう言葉があったな。役に立つ物が増えすぎると、役に立たない者が増えすぎる」
「誰でしょうか?」
「人間をロマンティックに見過ぎた人……マルクス。ほら、工場の機械が発達すると、いらない人がたくさん出てくるでしょう」
そう言うと八尋は、九能に、なにか注文しますかと尋ねた。九能はドリンクバーを頼んだ。
「それで、どうでした? 桐野さんは」
「いやね、八尋くんの言うとおりになりましたよ」
「では、計画は修正なしでお願いします」
それを聞いた九能は、ヘラヘラと聞く。
「でも、いいんですか? 啓蒙は」
「ええ、こうした方がこれから面白いでしょう」
「福富氏ですか?」
九能が質問を続けると、八尋は穏やかに微笑んで言う。
「九能さん、ぼくは無知だった者が教養を得た後が見てみたいのです」
「なら、桐野さんの勉強の成果も見れますね。それにしても楽しそうですね、八尋くん」
その後、散々迷って注文したサーロインステーキを食べ、八尋は満足そうに言った。
「そうだ。九能さんは『死の家の記録』は読みましたか?」
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