第10話 敗北後

8/10
271人が本棚に入れています
本棚に追加
/190ページ
「おれは安部公房と三島由紀夫が好きだ。でもおれ読書は苦手なんだよ。特に海外の文学とかは独特なのが多いから。まぁ、読んでいる方ではあると思うが、福を見てると、そうは思えなくなる」 「たしかに福富くんは読み過ぎですよね。それで、今はなんの本を?」 「今週は『砂の女』だ」 「じゃあ、草薙さんですね」 「ほう、おまえさんも知ってるね。よく不条理がテーマで語られる事があるが、あれは男と女の話だよな」 草薙は笑みを浮かべ、嬉しそうに話し出す。 「たしかに、砂ってタイトルに入っているけど、内容は湿っぽい色気がありますよね」 「あと女もタイトルに入っている。そこからしてシュールだよな」 「すごく狂気じみてますよね。主人公の男が女によって無意味な労働を強制され、そして、それが希望に変わっていく」 「男女の仲ってのは、損得だけじゃないとこもあると思うんだ。他人から見たらおかしい事も、本人同士は当たり前と思っている事もあるからな」 草薙がそう言うと、東は寂しそうな顔をして頷きながら言う。 「わかりますよ……すごく」 「おっ!? 知識じゃなく経験として知っているって顔してるな」 「草薙さんは、おもしろい言い回しをしますね」 「褒めてるか、それ? で、女でなにかあったのか?」 「いや、お互い悪かったんですよ。最終的にはおれのせいだけど……」 東の表情を見た草薙は、言葉に詰まりながらも話し出す。     
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!