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「おれは安部公房と三島由紀夫が好きだ。でもおれ読書は苦手なんだよ。特に海外の文学とかは独特なのが多いから。まぁ、読んでいる方ではあると思うが、福を見てると、そうは思えなくなる」
「たしかに福富くんは読み過ぎですよね。それで、今はなんの本を?」
「今週は『砂の女』だ」
「じゃあ、草薙さんですね」
「ほう、おまえさんも知ってるね。よく不条理がテーマで語られる事があるが、あれは男と女の話だよな」
草薙は笑みを浮かべ、嬉しそうに話し出す。
「たしかに、砂ってタイトルに入っているけど、内容は湿っぽい色気がありますよね」
「あと女もタイトルに入っている。そこからしてシュールだよな」
「すごく狂気じみてますよね。主人公の男が女によって無意味な労働を強制され、そして、それが希望に変わっていく」
「男女の仲ってのは、損得だけじゃないとこもあると思うんだ。他人から見たらおかしい事も、本人同士は当たり前と思っている事もあるからな」
草薙がそう言うと、東は寂しそうな顔をして頷きながら言う。
「わかりますよ……すごく」
「おっ!? 知識じゃなく経験として知っているって顔してるな」
「草薙さんは、おもしろい言い回しをしますね」
「褒めてるか、それ? で、女でなにかあったのか?」
「いや、お互い悪かったんですよ。最終的にはおれのせいだけど……」
東の表情を見た草薙は、言葉に詰まりながらも話し出す。
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