第3話 遊戯の時間

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「話をまとめよう。恵まれない人たち……いや、ある種の欠陥……いや、何か忘れてしまった感情を抱えている人間に効果があるカリスマ。マエガミは、イエス・キリストって事になるのか?」 答えない福富を見て、橘が時計に気が付いて言う。 「うん!? おっと、もうこんな時間だ。福富は明日早いんだろう?」 「先生と話していると時間を早く感じます」 そう言い、頭を下げる福富。 「老人のおれには嬉しいセリフだよ。よければまた来なさい」 「はい。今日はありがとうございました」 「福富……あまり依存するな。このままだと、譲治とナオミのようになるぞ」 「『痴人の愛』ですか。別にあいつをそういう目で見ているわけじゃないのですが……」 「ふふ、くれぐれも気をつけろよ」 「はい、気をつけます。では失礼しました」 福富が部屋を出ていく。 一人部屋に残った橘は思う。 ……人はいくらでも変われるものだね。 数字もろくに扱えない、漢字も読めない男が、あそこまで教養を身につけられるとは……。 福富は論文でも書かせれば博士号を取れる男になった。 歳をとって驚く事も減ったが、人生はまだまだ面白い。
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