時隠し

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 初めて人が消えたと知覚したのは、10歳のときです。  クラスメイトの久保さんという女の子でした。  所属するグループが違ったのでさして仲の良い子ではなかったですが、体育のチーム分けや理科の実験で同じ班になれば、普通に会話を交わす間柄で。  取り立てて目立つ子ではなかったですけど、運動が得意で足が速かったのを覚えています。中学に進学していれば、陸上部が似合ったんじゃないかな。  秋の終わりころだったと思います。  朝の出欠確認のときに当然のように久保さんの名前が飛ばされ、そこで初めて彼女がいないと気づきました。  何百回とくり返す日課ですから、耳がリズムのように覚えてるんですよね。先生が誰かを呼び飛ばし、生徒のなかでクスクスと笑いが起きるという体験は誰しも一度はあるんじゃないでしょうか。そこで委員長かムードメーカーの子が手を上げて、「先生、○○さんが呼ばれてません」って。  でも、クスクス笑いは起きず、誰も彼女が呼び飛ばされたことを指摘しなかった。  不思議に思って、振り返りました。久保さんは、私の席からいくつか後ろの席に座っていたはずなので。  彼女がいるはずの場所には、別のクラスメイトが座っていました。
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