時隠し

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 席替えでもしたのかと周りを見渡しても、変化はありません。  久保さんの席だけがない。彼女だけがいなかったのです。  出欠確認が終わり授業が始まりましたが、内容は全く頭に入ってきませんでした。  突然の転校だったにしても先生から説明があるはずですし、誰も疑問を発しないのはおかしい。  もちろん、クラスにいじめなんてありませんでした。  悶々と考えを巡らせて一番しっくり来たのが、やはり彼女は転校していて、私が知らないうちにお別れ会が催されたということ。  仲間外れにされる理由は思いつかないけれど、女子同士だから思わぬところで反感を買っていたのかもしれない。それはそれでとても悲しいけれど、この得体の知れない状況が説明されるならいいと思いました。  授業が終わり、当時一番仲の良かった渋谷さんに久保さんのことを聞きました。 「そんな子いないよ。まだ寝ぼけてるんじゃないの」  そう言って彼女は笑いました。私を騙しているような後ろ暗い笑みではなく、ただ冗談がおかしいというように。
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