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用紙の途中に何かを書いて消したような跡がある。これを浮かび上がらせるには鉛筆で周りに軽く色をつけてやればいい。
二桁の数字がぼんやり浮かぶ。まずは一つ暗証番号を見つけた。
それをメモに書き留め、もう一度室内を探索した。
ビジネスホテルによくある緑茶のティーパック。その端っこに断ち切られた文字のようなものが見える。
アルファベットの下の方三分の一程度に見える二つの文字。おそらく二十六文字内のこの数字の位置が二つ目の暗証番号だ。
すぐにアルファベットを特定し、二桁の数字をメモに記す。
二つ目の暗証番号を見つけた。このホテルの金庫の開錠に必要な番号は後一つ。
最後のヒントを求め、再び室内を探索する。さっきはおざなりにしか見なかったバスルームももう少し念入りに調査だ。
鏡やガラスの汚れにすら意識を向け、狭いユニットバス内に視線を走らせる。けれど数字はむろん、文字すらどこにも記されていない。
ここには何もないのだろうか。
無駄な時間を費やしたことにイラつきながらバスルームを出ようとした瞬間、メモ用紙の時のような違和感が意識に込み上げた。
シャンプーとコンディショナーの内容量が違い過ぎている。
こんな状態ではあるが、ミッション開始時、内容に障りがない限りホテルの部屋はどこも備品はきちんと揃えられている。これまで特に気にはしていなかったが、石鹸類の補充もいつもされていた筈だ。
もしやと思いボトルを確認すると、そこには細かな横線が引かれていた。
容量を示す線。容器の大きさからして一メモリ二十ミリといったところだろう。つまり、二つのボトルの内容量の差が最後の暗証番号だ。
忘れないよう、残りの一つもメモに取り、俺はついに金庫と向き合った。
どの番号が最初なのかは判らないし、それを何度合わせればいいのかも判らない。けれど、残り時間と暗証番号が出揃ろっている状況から、時間内の開錠は可能だろう。
何度も何度も空振りしながら、それでも少しずつ試し打ちの数を減らしていく。
その努力の果てに、俺の耳にカチリという小さな希望の音が響いた。
成功だ。錠が開いた!
喜びのままにレバーに手をかけようとした瞬間、ゾクリと背筋に寒気が走り、俺は自分の手を引っ込めた。
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