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椿と楓の兄妹最終戦争
「僕は怖いんだ」
「何が怖いの?」
「死ぬことさ!」
「人生は無から生まれて無に帰るの」
「それはわかっているんだ…だけど」
「失うことが怖いの?失う物は何?」
「わからない。だけど僕は恐ろしい」
「何もないのよ」
「そんな事ない」
「失う物は無よ」
そんな禅問答が日常会話となるほど世界は荒んでいた。人口学者が予測した食糧不足は土壇場で回避された。それどころか、積みあがる余剰在庫の解消が喫緊の課題になっていた。需要は急速にしぼみ、百億を数えた人類は三分の一に減少していた。
適正な人口、という概念は全くの誤りだ。人口増減率に拍車をかけねば右肩上がりの成長を維持できない。
人間の幸福というものは血反吐を吐きながら営業を続けるネズミ講に支えられている。
立ち止まることは許されない。停止したが最後、人類は滅亡する。
国連優生局のアリス・ハイマン博士はそう結論付けた。しかしながら出生率はピーク時の十分の一にも満たない。
子供を望まない夫婦、というより望めない夫婦が増え過ぎた。直接、間接の原因は数え切れないほどある。
もっとも有力な説はAI。すなわち人工知能の台頭を首班とする考え方だった。
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