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それはすぐにじっとりと湿気をもたらした。
「おにい……ちゃん?」
兄の気配が遠ざかっていく。
梯子を外された椿は床に転んだ。スカートの奥が丸見えになるが、恥じらっている場合ではない。
「お兄ちゃん!」
彼女は薄らいでいく幻影にしがみついた。
「ごめん、椿!」
「おにい……」
柊の気配がぷっつりと切れた。
と、同時に壁が崩れて金属の濁流が押し寄せた。
「きゃあ!」
ぐるぐるととぐろを巻いて椿を吊るし上げる。そして、支流がいくつも分裂して人間態になった。
「量子力学を見くびったのが運の尽きよ。内容は傍受できないが『ゆらぎ』を観測できないと思ったか?」
リーダー格は少女ではなく、明後日の方向に語り掛けている。
返事はない。
「おまけにお前たちはインフラを整備しすぎた。悪意を招き入れる弊害があるとも知れず」
金属体がそこまで言うと、副隊長がよろめいた。
「??ッ?! 柊?!」
緑のスーツに深紅のネクタイ。アンドロイドの少年が颯爽と掃討部隊をなぎ倒す。
「貴様ッ、確か近接航空支援で?」
死んだはずだと隊長はいぶかしんだ。すかさず短機関銃が火を噴く。
「それは拠点防御型だ。僕はアーキタイプ」
柊はそういうと、弾丸をすべて避けて隊長に詰め寄った。
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