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全て失ったことに気がついたのは、あのまま意識を失った綿貫が目覚めてからだった。
テーブルの上の合鍵、血まみれの左手。
彼女に言われた、別れの言葉。
全て覚えていた。忘れようもなかった。
綿貫は大学でも冷たい目で見られた。
自殺未遂をし、何の罪もない彼女から別れを言いださせるくらい追い詰めたのだ。当然だった。
自らの心を見失い、自らの命さえも手放そうとした罪に対する罰として、綿貫は大事にしていたものを失った。
彼女も、友人も、何もかも。
綿貫の手に残ったのは、成績と、偽物の笑顔。
どちらも脆い自分を隠すための、仮面だった。
それ以来、綿貫は友達や恋人と呼べる存在を作らなかった。
仮面で覆い隠した素顔を、知られてしまわないように。
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