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始まりは、綿貫の笑顔だった。 仮面が剥がれた時の、儚く消えていきそうな弱々しい笑顔に、穂積は恋をした。 もう二度と傷つきたくないがために心を閉ざし、 笑顔の仮面を纏って生きる綿貫を護りたいと思った。 目の前で気丈に振る舞い、笑顔でいつづけようとする綿貫を泣かせたいと思った。彼が泣ける場所でありたい、そう願った。 はっと気付いた時には、穂積は綿貫の右腕を引きよせ、抱きしめていた。 綿貫に逃げられないよう、少し力を込めて。 「怜。」 言葉を紡ぐことができなかった穂積はただ、綿貫の名を呼んだ。 「…涼さん?」 綿貫の不審がる声に、穂積はどうにかこうにか言葉を絞り出した。 「僕は、君と生きたい。」 穂積の姉の言葉は、今まで押し殺してきた感情を思い起こさせた。 誰かを好きになっても何もいえないまま、自分じゃない人間と結ばれていくのを、ただ友人として見ているだけ。 穂積は何度も好きになった人の…友人の結婚を祝福してきた。自らの心に嘘をついたまま、祝福のための笑顔を作ることが得意になった。 綿貫だけは失いたくなかった。 ただ隣にいるだけでいい。それだけでいい。 好きになってほしいなんて望まないから。 ただ、綿貫とともに生きたい。 何も言葉にできないまま、穂積はただ綿貫を抱きしめる手を強める。
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