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「ところで、卒業論文って、やっぱり歴史関係か?」
食後のコーヒーを入れながら、亞輝斗が問う。史学科在籍の雷月は、「何を今更」と、そっけなく答える。
ニヤニヤと口の端をあげて、亞輝斗が笑った。
「あのさ、それ、オレが手伝えるような内容?」
思わず、雷月は目を見開き、そしてしばらく考え、頭を抱えた。眉間にしわを寄せ、うーんと声をあげる。
「手伝える……ような……あー、でも、やっぱりダメだ。お前じゃ知りすぎている」
どういうことだよ……と、亞輝斗は子どものように頬を膨らませる。
「『歴史』は、客観的なモノだ。お前の知識は、「主観」だろ」
「ん……?」
何のことだか、よく理解していない様子の亞輝斗に、かみ砕くように、雷月は指摘した。
「……それは、実際にお前が見て、体験している話だろう?」
うん。と、亞輝斗はうなずく。
「生まれたのは元号ができるちょいと前だし、長徳元年くらいまでなら実際に目にしてるな」
得意げに答える亞輝斗に対し、雷月は渋い顔を浮かべる。
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