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これまた、例の彼女にロマンチストだと笑われたのだけれど、最近、平成が自分の時代に始末をつけ始めたような気がする。 平成が終わると最初に聞いた時は、そんなこと考えもしなかった。 でも、平成の大事件の犯人が、平成の終わりを前につかまるのもそうだし、平成という時代を象徴するような、つまりは僕の青春を彩ったいろいろなものが終わりを迎えているのを見て、だんだん一つの区切りができるように思えたのだ。 一緒に年をとってきたアイドルが解散し、僕らが熱狂したシンガーやプロデューサーが引退を表明した。 僕らが馴染んだものが、少しずつ過去のものになり、つぎの時代に道を明け渡す。 元号なんてただの名称で、それが変わったからって、何が変わることもない、それが彼女の言い分だ。 いつだって、彼女はドライで、どちらかというと僕がウェットな考え方をする。 それは、出会ったころから変わらない。 彼女は、いつも新しいレストランを見つけてくるし、僕は、あの時のお店にまた行こう、と考える。 彼女は記念日なんてすっかり忘れてしまうし、僕は律義に花束なんて用意したりする。 彼女は人生にファンダメンタルなんて求めないし、僕はそれを時折探そうとする。 僕らが平成の時代に育てられた世代で、その一つの時代が終わりを迎えようとしている、なんてことをつらつら考えたのは、ふわふわと、重しを持たずに生きてきた僕だから、一大決心の前に、言い訳がほしかったのかもしれない。 この次の新しい時代が始まるとき、君と僕の新しい関係を始めたい。 僕は、君に渡すために買った指輪を見つめる。 こんな壮大な言い訳を用意して君に求婚する僕を、君はまた笑うだろうか。                                    おわり
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