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「やっと終わりましたね」
「まだあかん。あっこ、右に曲がるまではお腹痛い振りしながら歩いて。絶対、振り向いたりしたらあかんで」
僕達は、やっとの思いで警官達の職質から解放されることが出来た。
僕は気が緩んで普通に歩き始めるが、そんな僕を静ちゃんがすぐに注意してくれた。
そう、まだ油断したらダメなのだ。
職質が終わり、気が緩んだところでボロを出すケースが多く、それを警官達は見逃さない。
僕は寺町通りの1番北にあたるT字路を右に曲がるまで、お腹が痛い振りをしながら歩いた。
「もう良いよ。ポリからはもう見えないし」
静ちゃんはそう言うと、僕と組んでいた手を放す。
「ほんとにお腹痛くなりそうでしたよ」
僕はずっと前傾姿勢で歩いていたので本当にお腹が痛くなりそうだったが、ようやく背筋を伸ばす事が出来て、そんな感じも無くなった。
「絶対、この辺で何かあったんやわ。ほら、あっこにもポリがいるし」
静ちゃんの言う通り、僕達の後ろ側にあたるT字路の左奥にも、警官の姿が3人ほど確認できる。
何かあったのは間違いなさそうだ。
この辺で警官を見かけるのは別に珍しい事ではない。
しかし、いつも見かける警官達は駐車禁止の取り締まりをしている事が多く、こんなに活発に職務質問をしている姿は初めて見る。
「とにかく、山科に戻ろっか。ややこい事に巻き込まれても、めんどいし」
「そうですね。僕も他に行かなあかんとこありますから」
それから僕達は、地下鉄に乗る為に三条京阪に向かった。
警官に職質を受けた時はかなり焦ったが、良い方向に動いた事も1つある。
ずっと元気が無かった静ちゃんが、職質されてから元気になってくれた。
今も、「ブレスレットとレシート見せなかったらヤバかったわー」と、楽しそうに笑いながら僕に話かけている。
そんな静ちゃんと話ながら歩いていた僕は、ようやくここで気がついた。
静ちゃんの顔が真っ赤になりだしのは、工藤くんが来てからなのだと言う事に。
もしかしたら、静ちゃんがプレゼントしたい相手は、工藤くんなのではないか。
それならば、静ちゃんの様子かおかしかったのも納得できる。
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