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この後、話をしてくれたカップルは、浜大津行きの地下鉄に乗ってこの場から去って行った。
同じホームでも三条京阪には2つの地下鉄が通っていて、僕達は浜大津行きではなく、六地蔵行きを待っている。
両方とも山科駅に止まるのだが、僕は雅人くんにこのまま会いに行きたかったので、東野公園に1番近い、椥辻駅と言う所に止まる方を選んだのだった。
その六地蔵行きの地下鉄も、後5分ほどで到着する。
「そやけど鮎川って、誰にでも話かけんのね。気がついたら知らん人達と喋ってるからびっくりしたわ」
「すいません。1回 気になったら、凄い気になるんですよね」
「ま、別に良いけどさ。でも、何か最近おかしいよね。バットで殴るん、流行ってるみたいやん」
「そうですね……」
僕の頭の中では、これらは全部、魔風威夜の仕業だと思っていた。
でも、さっきの人達が殴られていない事が引っ掛かる。
ケンカ相手の5人がそうなのかはわからないが、もしかしたら狙われているのは、暴走族をやっている人達だけなのかもしれない。
だから、さっきの人達は殴られなかったと考えると、辻褄が合う気がする。
しかし、こうなってくると本当に花一輪とケンカしている場合じゃない。
おまけに、高田が出てきたら、近江連合にも狙われるのだから。
「あの、僕は椥辻まで行きますんで。ちょっと大事な用がありますから」
「わかった。今日は付き合ってくれてありがとう。あたしは山科で降りるよ。19時からバイトなんだよね」
藍ちゃんから聞いていたが、静ちゃんはフリーターで、バイトを3つもしているらしい。
高校をすぐに退学した静ちゃんは、話によると、何か目標があってお金を貯めているそうだ。
その目標は、恥ずかしいからと藍ちゃん達にも言わないらしい。
何があって高校を退学したのかはわからないが、僕はフラフラせずに目標を持ってバイトを頑張っている静ちゃんは偉いと思った。
ほどなくして地下鉄が到着し、僕達はそれに乗り込んだ。
地下鉄の中では人もたくさん乗っていたしずっと沈黙で、およそ10分で山科駅に着く。
「じゃ、藍によろしくね」
「はい。バイト頑張って下さい」
静ちゃんは、僕に手を振りながら笑顔で電車から降りて行く。
僕は、そんな静ちゃんを見ながら工藤くんと上手くいったら良いなと心の中で願っていた。
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