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目が慣れて薄らぼんやりとハルの顔が見えた。
ハルは、俺がどんなバカをしても笑わない。
何も言わなくて、そこに居る。
だからこの不健康な共同生活を続けていられるのだろう。
俺はハルの素性を何も探らない。
俺のことをハルも探らない。
ヤツが女の匂いをさせて帰ってきても、傷だらけで帰ってきても、俺は何も言わない。
互いになにも求めない。
「あんたの言うことをそのままにすると、あの星の中にいつかはオレも入るんだな」
「はは、まるでハルは死にたがっているようだな」
「オレはまだ死なねえ。アイツを殺すまでは」
その声に滲んだ気迫に、思わず横を見ると、ハルは今すぐにでも人を殺しそうな顔をしていた。
綺麗だった。
俺はアイツが誰か訊かない。
ハルなら、人を殺して帰ってきても、何も言わないだろうという確信があった。
ハルが人を殺して帰ってきたとしても、俺も何も言わないだろうと思った。
ハルが仰向けのまま、窓から更に身を乗り出した。
「本当に落ちるぞ」
「大丈夫」
冬の深夜は静かだった。
「ああ、オレ、あんたとなら死んでもいいかな」
「…馬鹿言え」
春になれば、コイツと桜を見にでも行こう。
霞む桜吹雪のなかで、ハルはきっと綺麗に笑うのだろう。
終
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