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俺はハルの素性を知らない。
高校には確実に行っていないし、家にも帰っているのか知らない。
いつも窓の外を、何処を見ているのか分からない目で、冷たい表情で見ていた。
「もうずいぶんと寒いな、冷たい風が独り身にいてぇ」
「ずい分と、寂しいな」
「煙草の煙が良く似合う男になれずに、惨めさが増すばかりだ」
白い煙を部屋の中に吐き出す。
「オレは似合う似合わないとか気にしねえよ」
あんたが煙草吸ってる姿、カッケーよ。そう言ってハルは口の端を歪ませた。
俺の方など見向きもせずに。
窓から身を乗り出して、空を仰ぎながら。
「そんなに身を乗り出したらあぶねえぞ」
「タカさんも見る?星が綺麗だぜ」
そう言って今日初めて俺の顔を見た。
こんな街中じゃ星なんて見えねえだろ、そう思いながらハルの隣に座る。
ぐいっとハルの真似をして身を窓から乗り出すと、真っ黒な夜空だった。
「星なんて見えねえじゃねえか」
そう俺が文句をこぼすと、部屋の灯りを消せば見えるよ、そう言ってハルは明かりのスイッチを落としに立った。
パチンという音が寒い部屋に響いて暗闇になる。
暗闇になった部屋をヤツは猫のように身を滑らせて、器用に俺の隣に座った。
目が暗闇になれてくると少しずつ星が見え始めた。
「綺麗だな、あの一つ一つが、銀の砂みてえだ」
「ははっ」
「あの無数の星は、この真っ黒な夜空に吸い込まれた命だったりしてな」
十数年ぶりに見上げた星空に酔ったか、我ながら恥ずかしいことがさらっと言えた。
「あんた、見た目に似合わず意外と詩人だな」
ハルは、笑いもせずにそう言った。
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