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何を見ているんだろうと思った。 探すように一生懸命見ている、視線の先には何があるのだろう。 不安そうだったり嬉しそうだったり切なそうだったり、色んな表情で何かを見ている有沢萌を、ぼくは無意識に目で追うようになった。 有沢が見ている何かが気になっていたはずなのに、いつの間にか有沢そのものが気になっていた。 有沢が見ているものは花でも木でも空でもなかった。いつも同じ一人の男子をずっと見ていた。 それがわかってぼくは、より一層有沢への興味が増した。この感情が何なのかはぼくにはわからなかった。ただただ有沢を知りたいという気持ちだけが膨らんでいった。 同じクラスだから話しかけるのは簡単なはずだった。 他の女子には気軽に声をかけられるのに有沢にはそれが出来なかった。有沢には友達が少なく、授業以外はいつも外を見ているか本を読んでいる。 「何読んでるの?」と訊く練習を心の中で何度もした。それなのに訊ける機会に恵まれた時ぼくは、「何それ」と言ってしまった。有沢はムッとした顔で「小説だけど」といってパタンと閉じた。 有沢はプンと横を向いてしまう。艶々とした黒髪が光る。 「何の小説?」 有沢は答えず、顔を横に向けたままだった。     
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