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でも面白くなかったことはそれほどショックではなかった。変態のおっさんの話といえばそれまでだけど、それだけでは説明しきれない何かが書かれているような気もした。そして何よりぼくは、『みずうみ』を読むことで有沢を少し知れた気がして満足だった。
スマホを見るとグループLINEに「悲報! 有沢が蓮太朗にチョコレート受け取ってもらえず!」というメッセージが流れていた。「うけるwww」「ダサw」「撃沈!」と数人が煽って盛り上がっていたので、それ以上読まずに閉じた。
それでぼくは有沢のことを考えた。有沢がいつも宇井蓮太朗を見ていたのは多分ぼくが一番知っている。宇井の彼女にも宣言して、一大決心をしてチョコレートを渡しに行ったに違いない。それなのに受け取ってもらえなかった。有沢は泣いたのか。傷ついていないだろうか。心配になった。気になって、ずっと有沢のことを考えていた。胸のあたりが痛くなった。もしも有沢が傷ついていたとしたら、ぼくに出来ることはあるだろうか。ぼくが、有沢のために出来ること。
次の日、まるでチョコレートを受け取ってもらえなかったのが自分のことだったかのように暗い気持ちで学校に行った。
でも有沢はいつも通りだった。
むしろいつもより上機嫌な気がした。
本を読んでいる有沢に「『みずうみ』読んでるの?」と訊いた。
有沢は「あれはもう読み終わった」と清々しく笑って答えた。
「じゃあそれは何読んでるの?」ぼくは訊いた。
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