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有沢は顔を上げ、真っ直ぐぼくを見る。昨日一晩中有沢のことを考えていたことが見透かされたようでドキッとする。 「小説好きなの?」 有沢が言う。 好きなの? と問われてぼくは、ああ、そうか、それだ、と気付く。 「ううん、有沢が何読んでるか知りたいだけ」 ずっと感じていた例えようのない気持ちに、有沢が名前をつけた。 「読み終わったら貸してあげよっか」 有沢が手に持っている小説を顔に近づけて言う。 「うん、貸して」 ぼくは無意識に答える。 「いいよ、待っててね」 有沢が笑う。そうだ、ぼくは。 好きなんだ。 有沢のことが。
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