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蓮太朗の家は立派な一戸建てで、両親は共働きで帰りが遅くて、大学生のお兄ちゃんは友達の家を転々と泊まり歩いてて、だからわたしたちは蓮太朗の部屋のベッドで何回もエッチをした。
せっかくエッチが楽しくなってきたのに、これから試したい色々なこともあったのに。
「お金がいるのかな……けっこうたくさん」
蓮太朗が繋いでいた手を離した。
後ろから車が来たから蓮太朗がわたしの肩をつかんで道路の白い線からはみ出さないように押してくる。夕日を背に浴びた蓮太朗の顔が泣いてるみたいでびっくりした。泣いてなかった。むしろ怒ってた。
「なんで?」ってわたしは訊いた。
「無理じゃん、だって」
「無理だよね」言いながら笑おうと思ったけどうまくいかなくて左の頬がひきつる。
どこかの家から焼けた魚の臭いが漂ってくる。お腹空いたなって思う。
「送るわ」と言って蓮太朗が引き返そうとする。
「一人で帰れるよ」
このまま別れるのかな。わたしたち。生理がこないこと、言わなきゃよかった。
「ちゃんと考えとくから」と蓮太朗は言う。ああお金のことねとわたしは思う。
考えとくのはいつもわたしの方だった。
付き合ってほしいって言われた時も、家においでって言われた時も、エッチしようって言われた時も、主導権はわたしにあった。わたしが蓮太朗を想うより蓮太朗がわたしを好きな気持ちほうが大きくて、有利なのだと思っていた。
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