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なにか意地悪な言葉を浴びせてやりたいと思った。今こんな状態だけど宇井蓮太朗は一応わたしの彼氏だ。これは宣戦布告に違いない。わたしから蓮太朗を奪うつもりなのだ。奪えるはずもないのに。蓮太朗は萌のことを陰で『肉まん』と呼んでいる。蓮太朗と萌は中学校が一緒だった。今はそうでもないけど中学のとき萌は太っていたらしい。何かのアニメの登場人物に憧れて度の入っていない伊達メガネを萌がかけていると教えてくれたのも蓮太朗だ。 蓮太朗が言っていたことを全部ぶちまけてやろうかと思った。 肉まんはブスで不潔でオタクだって蓮太朗が言ってたよって。 けれど将棋をしている男子が聞いている。絶対に、息を潜めてわたしたちの会話に聞き耳を立てているだろう。 あの男子たちに、わたしの悪い噂を振り撒かれたくない。 「好きにすれば」 わたしは吐き捨てるように言って、萌の横を通って階段を降りた。萌からバニラみたいな甘すぎる匂いがした。 それから放課後もわたしは、学校で死に場所を探した。探しながらわたしは本当は死にたくなんかないと思った。 今わたしの身に起きていることが萌に起これば良かったのに。 生理が遅れているのが萌で、妊娠の恐怖に怯えているのが萌で、蓮太朗より自分のほうが好きな気持ちが上回ってしまったのが萌で、死に場所を探しているのが萌。 わたしはそんな萌に言うのだ。蓮太朗を好きだという強い気持ちを持って。 「わたし、蓮太朗に、チョコ渡すから!」 中庭のウサギ小屋の影に座り込み、わたしは萌になったつもりで言ってみる。 笑える、と思ったけど笑えなかった。心と、お腹が痛かった。
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