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もうすぐ休憩時間が終わるからみんなが教室に戻ってきて、ああもう答えてもらえないんだろうなと諦めて有沢の席を離れようとしたとき「みずうみ」と有沢が言った。
「え」
ぼくが聞き返すと今度はきちんと目を合わせて「川端康成」と答えた。
返す言葉が見つからなくてぼくは有沢をじっと見つめてしまって、どいて、と有沢の隣の席の奴に言われてハッとして我にかえり自分の席に戻った。
次の休み時間に田中に誘われて北校舎の最上階に行った。ほとんど人が来ないからいつもとても静かで、駒を置く音がよく聞こえるからと田中が気に入っている場所。
田中に一から将棋を教えてもらい、なんとか指せるようになったけど田中に勝つことは永遠にないような気がする。
駒を並べながら田中に「みずうみって知ってる?川端康成の」と訊いてみる。
「ああ、変態のおっさんの話だろ」田中はぼくが置いた駒の角度を直しながら言う。
「マジ」
「いや、読んだことないけど、あらすじだけ見てそんな風に思った気がする。それよりさー、お前あれ読んでくれた?」
変態のおっさんの話という感想が心に引っ掛かったまま田中に借りた『3月のライオン』という漫画を思い出す。
「ごめんまだ」
「早く読めよー。続き持ってきてやるからさー。絶対もっと将棋を好きになるからー」
ごめんごめん、と答えながらぼくは川端康成の『みずうみ』を読もうと心に決める。
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