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バレンタインデーの日も田中と北校舎の最上階に行こうとした。
先に階段を上がっていた田中が将棋盤を持ったまま「斉木がいる」と言って止まった。
「降りよう」と田中が言うので一つ下の階の踊り場でぼくたちは腰を下ろす。
「なんで斉木がこんなとこに」ぼくは言った。
「宇井と待ち合わせなんじゃね、チョコ渡すとか」
「あー」
斉木絵莉香と宇井蓮太朗は校内でも有名な美男美女で、二人は付き合っている。堂々と渡せば良いのに。なんでわざわざこんなところで、と少し不満に思う。
田中に、ぼくたちには無縁だなと言おうと思っていたら斉木が降りてきた。
田中もぼくも斉木と目を合わせないようわざとらしく将棋盤に駒を並べる。
「もう時間なくない?」
「そうだな。ま、でも並べながら話そうぜ」
田中が言って「話すって何を」とぼくが笑っていたら「斉木さん!」と声が聞こえた。
有沢だ。声だけですぐにわかった。
「あたし、宇井くんに、チョコレート渡すから」
有沢が言って、斉木が何か答えた。
田中が目を見開いて、手すりの陰から斉木達のいる下階を覗く。
「やめろよ」
ぼくは押し殺した声で言い、田中を止めるため立ち上がって腕を引っ張る。
「斉木さんには言っておこうと思って」
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