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「なかなかに興味深い話だね。本当に気のせいじゃないんだね?」
「絶対あれは気のせいなんかじゃないって」
「そこまで言い切れるんだったら引っ越したら」
「でも…」
折角見つけた格安物件を捨てるのが勿体無い気がして、踏ん切りがつかない。
「じゃあ、こういうのはどうだ。俺がお前の代わりにその家に住んでみるってのは」
「和樹がうちに?」
「そうだ。実はお前には言ってなかったけど俺、霊感があるんだ」
「そうだったのか。それなら是非お願いしたい!」
見つけた希望の光に、必死に縋り付いてしまった。
* * *
あいつから鍵を預かって一ヶ月ばかり住居を交換することになった。
家の鍵を開けて中に入るとおっさんがいた。中肉中背の頭の天辺が禿げているおっさんが玄関前に立っている。
予想外の展開に困惑してしまう。
「あの…ここって田中の部屋ですよね?」
思わず目の前のおっさんに確認してしまった。
「んぁ?」
おっさんは気の抜けた声をだして目をぱちくりと瞬いた。ふっくらとした顔は愛嬌があるかもしれない。
「いや、俺とあいつの部屋やぞ」
「俺とあいつの?」
「せや。最近あいつ引っ越してきたやろ。んで、一緒に住んどるから同居人やな」
もしかしてこの人は…
「あなたはもしかして自殺されたお方ですか?」
「失礼なこと言うなや。あれは自殺なんかじゃないんや。ちょっとした興味本位で起こった悲しき事故なんや」
やはりそうか…それにしてもハッキリ見える幽霊だな。幽霊だと気づけないとは如何なものだろうか。
「俺は相沢和樹と言います。田中から相談を受けて一ヶ月の間こちらに住まわせてもらうことになりました」
「そうなんか。どんな相談を受けてるんや?」
「ここで話すのもあれなんで、居間に行きましょうか」
靴を脱いで家に上がると、おっさんが俺の前を歩いて居間に向かった。
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