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俺は帰りながら田中に電話をかけた。三コール目で田中は応答した。
「どうした和樹? もしかしてもう怪奇現象が起こって音を上げたのか?」
「ある意味怪奇現象は起こったけど、音は上げてはいないよ」
「何だ、違うのか。じゃあなんだよ」
どこか落胆と安心が混じったような返事だった。
「問題は解決したから家の交換は終わりだ」
「は!? まだ一日も経ってないじゃないかよ!」
俺の宣言に田中は驚愕している。驚きを隠せない田中に俺は事情を説明してやった。説明が終わるまで田中が口を開くことはなかった。
「なるほどな。俺はおっさんの幽霊と寝食を共にしてたって訳か」
「そういうことになるな。でも、悪意のある幽霊じゃないし事情がわかったなら安心だろ?」
「確かに安心ではある。でも、おっさんだろ?」
「おっさんだ」
「なぁ、和樹」
「なんだ」
なにやら考え込んでいる雰囲気で俺の名前を呼ぶ。
「俺、引っ越すわ」
「なんだよ。結局引っ越すのか」
「わざわざ調べてもらったのに悪いんだけどさ、いくら死んでるからと言って、知らないおっさんとひとつ屋根の下ってのはやっぱり精神的に厳しいわ。調べてくれてありがとな」
電話を切り、俺は自分の家へと帰った。入れ替わりで田中が賃貸に戻って行く。
それから程なくして田中は別の物件へと引っ越した。今度の物件は平均家賃の物件だ。不動産に念入りに質問を繰り返して選んだ物件らしい。
田中が引っ越したのを確認してから、俺も一人暮らしを始めることにした。引越し業者に先に荷物を送っておいてもらい、俺は後日、物件に足を運んだ。
荷物だけが置いてある家の扉を開けた。 すると聞き覚えのある声が聞こえた。
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