潜入捜査官 小暮翔人

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「はじめまして。私は『安らぎの森』での皆様のサポート役、AIのハナです。これから『安らぎの森』についてご紹介させていただきます。失礼ですが、杖を使っていらっしゃるのですね?」 画面の中のAIから突然問いかけられ、戸惑った様子の老夫婦に代わって翔人が答えた。 「そうだよ。こちらの方は足が不自由で、『安らぎの森』での生活も大丈夫かご心配だそうだ」 老夫婦と眼を合わせ、付け加える。 「こんな感じで、人間と会話するように、話しかけてください」 老夫婦が頷いている間に、ハナちゃんは施設内のバリアフリーに関する動画を再生し始めた。 「『安らぎの森』では、施設の全てをバリアフリー化しています。小さな段差もありませんので、杖の方も車椅子の方も、すべての部屋にスムーズに移動できます。移動中も常に私が見守っているので、もし転倒しそうになっても、すぐにお助けします」 「買い物に行ったり、病院に行くのはどうなるのかしら?」 動画を遮るようにして老婦人が尋ねると、AIはすぐに買い物についての動画に切り替えた。 「お買い物でしたら、施設内のどこででも、私ハナにお申し付けください。ご注文いただいた商品は、早ければ1時間後にはお手元に届きます」 「買い物の支払いはどうなるんだ?」 ご主人も食いついてきた。こうなれば後はAIと客との世界だ。翔人はそっと脇にずれ、またブース前の通りを歩く人間を眺める仕事に戻った。老夫婦は早くもAIとのやり取りに慣れてきたようで、矢継ぎ早に質問していた。それを聞くともなしに聞き流していた翔人だが、ふいにAIの声が耳に飛び込んできた。 「ご希望の方は、資産の運用も私ハナが代わって行います。利用者様としては何もしなくても資産が増えていくわけですから、8割以上の方が資産運用をご希望されています」 AIが個人資産の管理までしているのか。ふと翔人の脳裏で、数日前の大田室長との会話が蘇った。 「この施設の中で死んだ身寄りのない年寄りの遺産はどこへ行くと思う?」 「施設の奴らが遺産をちょろまかしてるってこと?」 AIに資産管理を任せているように見せかけて、実は自分たちの懐に入れているんじゃないか?
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