潜入捜査官 小暮翔人

13/16
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
美優から連絡が来たのは翌日の夕方、窓の外が暗くなり始めた頃だった。翔人が事務室で相変わらずの資料の袋詰めをしていたところ、スーツの奥に潜ませていた端末が着信を告げた。沼淵にトイレに行くと告げ、人があまり通らない廊下まで出てから端末を開く。 「どうだった?」 と尋ねると、美優は興奮気味に「正解だったよ」と叫んだ。 「やっぱりそうだった。『安らぎの森』は相続人のいない利用者から預かった資産の一部を自分の口座に移してたよ。パッと見には運用に失敗したように見せかけて、実はネコババしてたってわけ!」 「おっし」 翔人はガッツポーズを作った。証拠を掴んだ。これで任務終了だ。通信を切り、今日はビールとツマミを買って帰ろうなどと考えていたところ、誰もいないと思った通路の奥から呼び止められた。 「随分楽しそうだね。どうしたんだい?」 振り返ると、バーコード頭の施設長が立っていた。気持ち悪い、作り物のような笑みを浮かべている。 「もうすぐ定時だけど、今日は残ってもらわないといけないなぁ。どうも、何者かがハナちゃんを攻撃しているみたいなんだよ」 「へぇ……。それは大変ですね」 「そのネズミを今から捕まえないといけないんだ」 施設長が右手を振り上げ、翔人に向かってサッと下ろす。それと同時に翔人が立っていた場所を囲むようにシャッターが降りたが、翔人が走り抜けるほうが一瞬早かった。後ろで施設長が叫んでいるのが聞こえる。 「ハナちゃん、そいつを捕まえろ!」 翔人が駆け抜ける後ろでシャッターが次々に降りている音がする。徘徊者対策システムだな、人を認知症扱いしやがってと翔人は舌打ちした。施設の見取り図を思い描き、最も近い出口を目指す。あの角を曲がれば、出口まですぐだ。しかし角にたどり着く前にシャッターが降りた。後ろを振り向くが、やはりシャッターに阻まれている。横の壁にはドアが3枚。手近な1枚に飛びつきノブをガチャガチャ回すが鍵がかかっている。「くそっ」舌打ちしたところで、シャツの襟を何者かに強く引っ張られ、奥のドアの中に放り込まれた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!