潜入捜査官 小暮翔人

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バタンと扉が閉められると、中は真っ暗になった。翔人を放り投げた人物は、仁王立ちをして彼を見下ろしていた。 「時間稼ぎ、ご苦労」 しわがれ声の相手を見上げると、枯れ木に似た老婆だった。 「あんたたち情報室のやり方はお粗末だったけど、囮としては悪くなかった。あんたを追いかけるのに連中が熱中してくれたから、やっとハナちゃんの中に偵察ウイルスを送り込めたよ」 「あんた、もしかして……」 この老婆がカオリか。そう気づいた翔人の言葉も待たず、彼女は部屋の隅の床を剥がし始めた。 「あんた間抜けだけど運はいいね。この部屋にはこいつを隠していたんだ」 カオリが床から取り出したのは小型の端末だった。それを、ものすごい早さで操作している。しばらくして彼女は「完了」と呟いた。 「もう大丈夫だよ。外に出よう」 翔人はカオリに続いて部屋の外に出た。一見、状況は先程と変わっていないようだった。部屋の前の通路は、右も左もシャッターで阻まれている。そんなことはお構いなしにカオリは出口側のシャッターに向かうと「ほら、あんた若いんだから、これ持ち上げて」と翔人に顎で示した。 「いや、AIが俺たちを閉じ込めてんだから、開くわけないっすよ」 「そのAIを、この辺だけ無力化したんだよ。いいからさっさと開けな」 しぶしぶシャッターの下部に手をかけると、意外なほどスムーズに持ち上がった。翔人の横を、老婆がゆうゆうとくぐり抜ける。 「ほら、この調子でさっさと外に出るよ」
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