潜入捜査官 小暮翔人

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「朝食は朝9時までで、その後は利用者さんの好きなように過ごされます。ラウンジでお喋りされたり、裏の森を散策される方が多いです」 施設長から新人に施設内を案内するよう命じられた沼淵は、いかにも不本意といった様子でボソボソと説明して歩いた。彼女のネガティブな空気に飲まれまいと、翔人はわざとらしく明るい声を上げた。 「こちら、裏の森が人気なんですよね。遊歩道が完備されていて、歩きやすくて自然も満喫できるって。施設名も『安らぎの森』っていうくらいだし」 「ああ、最初は皆さんそう言われますね」 会話が途切れた。居心地の悪さを吹き飛ばそうと、翔人はもう一度、明るい声を作った。 「こちら、最近人気が上がって、空室待ちだって聞いていたから、もっと賑やかなのかと思っていました。意外に静かで落ち着いているんですね」 もう施設内の大半を見て回ったが、利用者は殆ど見かけなかった。事前の資料で80ある個室はすべて満室となっていたことを思い出し、翔人は違和感を覚えた。沼淵は彼のほうを見ようともせずに、独り言のように返した。 「皆さん、お部屋に引きこもっているからでしょう。ご高齢だから出歩くのも大変ですし」 また会話が途切れた。せっかくの話題を粗末に扱いやがって、とイラつくのを抑え、翔人は頭をフル回転させて次のネタを探す。 「そういえば不思議なんですけど、利用者さんの割に職員が少なすぎませんか? さっきは施設長も入れて6人しかいなかったですけれど」
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