潜入捜査官 小暮翔人

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閉じられた扉が続く廊下の途中で、突然「キャーッ」という歓声が聞こえてきた。翔人は辺りを見回したが、声の出処は分からない。前を歩く沼淵の背中に尋ねると 「利用者さんです。この先にラウンジがあるんですよ」 との答えだった。そのまま行こうとする彼女を引き止める。 「ラウンジを見てもいいですか?」 この施設で出会う初めて利用者だ。ちょっと見ておきたい。中で続く談笑を遮らないように、翔人はそっと談話室のドアを開けた。中には10畳ほどの空間が木の壁とカーペットに囲まれていた。ソファやテーブルもいくつかあり、見てきた施設内の他の場所よりもリラックスできそうだった。そこに4~5人の高齢者が腰かけ、大声で談笑している。全員、翔人が今まで見たこともないくらいシワだらけの顔をしていた。もしかしたら平成一桁生まれかもしれない、天然記念物レベルだなと舌を巻き、ドアをそっと閉じた。 「みなさん、お元気そうですね」 待っていた沼淵に話しかけた。 「ええ、今はお元気ですね。でもすぐに認知症が出たり、転んで骨が折れたりして、個室に閉じこもるようになりますよ」 沼淵は興味がなさそうに、サッサとまた歩き始めた。
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