潜入捜査官 小暮翔人

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「そんで、施設を見て回ったあとは、することがないんで、パンフレットを封筒に詰めてダンボールに入れるっていう作業を延々としたんだ。まったく、こんな作業こそロボットにやらせろってんだよ」 「封筒詰めって、別の設備を入れないとできないもんね。新しい機械を買うより、暇を持て余した人間にやらせたほうが安く済むってこと」 美優は馬鹿にしたようにゲラゲラ笑っている。立体映像を切って音声通話のみにしてやろうかと翔人は考えた。 「それより、そっちの進み具合はどうなんだよ」 イライラした口調で話を振ると、美優は急に馬鹿笑いをやめて、真面目な顔になった。 「施設のシステムにクラッキングしようとしてるんだけど、そのAI、ハナちゃん? の警備が厳重で、もう少し時間がかかりそう」 「どのくらいかかる?」 「今の調子じゃ、少なくとも2週間は待ってほしいな。カオリさんの動きにもよるけど」 「カオリさん?」 聞き覚えのない名前に翔人は首をひねった。 そうそう、と美優は顔を明るくした。 「そっちに潜入中の情報提供者だよ。詳しいことは分からないけど、カオリさん、クラッキングの経験もあるんだって。翔人、今日それらしい人に会わなかった?」 翔人は今日一日のことを振り返ったが、思い当たらなかった。 「いや、それっぽい人はいなかったな」 「そっか。実は最近、カオリさんからの連絡が減ってて、心配なんだよね。検閲が厳しくなってるみたい」 美優が表情を曇らせる。彼女がこんな顔をするのは珍しかった。 「お前みたいな冷血女でも仕事仲間の心配するんだな」 茶々を入れると、美優も「あんたと違って、カオリさんは優しくて頭も良くて素敵な人だからね」と笑ってみせた。
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