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もうすぐ十二歳になる桜子は、本当だったら、この春に尋常小学校の六年生に進級するはずだった。しかし、元々は学年で中の上ぐらいの学力だった桜子は去年から急に猛勉強を始めて、同学年どころか上級生の六年生たちよりも成績優秀になったのである。
そして、この時代に認められていた飛び級の制度を使って、一年早く小学校を卒業し、東京の名門女学校の入学試験を受けてみごと合格したのだ。
今ふうに言うと、小学六年生の女の子が中学校に入学するようなものである。
飛び級の希望者は、進学希望の学校の試験を受ける前に、飛び級を認めてもらうための試験も受けなければいけなくてすごく大変だった。ほどほどの学力だった桜子がなぜそこまで必死に勉強して飛び級したのだろうと蘭たち同級生は不思議に思っていたのである。
「蘭ちゃん、そんなさびしそうな顔をせんといて? 離ればなれになっても、わたしたちはずっと友達やに!」
桜子は泣いている親友にハンケチを差し出し、ギュッと手をにぎった。蘭はハンケチで涙をぬぐいながら「でも……」と言う。
「女学校を卒業したら、そのまま東京におる許嫁と結婚するんやろ? もう会えへんやん」
「そんなことないよ。ここはわたしの生まれ故郷やもん。夏休みには必ず帰って来るし、お嫁さんになってもたまには遊びに来るよ」
「……本当?」
「うん! わたし、大切な人との約束は絶対に破らへん! 指切りしよ!」
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