1 潮騒は初恋のメロディー

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 桜子と蘭が指切りをすると、その様子を見守っていた桜子の父親の梅太郎(うめたろう)が「う、うう……。立派に成長して……」と言いながら鼻水をたらして大泣きしていた。  娘を猫可愛がりしていた梅太郎は、本音を言うと、飛び級なんかせずに小学校卒業後は地元の女学校に通ってほしかったのである。でも、どうしても東京の学校へ進学したいという桜子の願いを無視することができなくて、泣く泣く可愛い娘を送り出そうとしていた。 「日本一可愛い桜子が、人がたくさんいる東京で生活するなんて、心配だ……。悪いやつが、桜子の世界で一、二を争う美しさに目をつけて、誘拐したりしないだろうか……。いや、もしかしたら、どこかの伯爵の息子やえらい政治家の息子が、全宇宙で最高の愛らしさをほこる桜子にほれて、求婚者が殺到(さっとう)したらどうしよう。桜子には、ちゃんとした許嫁がいるのに……。困った、困ったぞ……」  心配のあまり、梅太郎はまわりの人たちがあきれるほどの親馬鹿な妄想をして、泣きながら「ああ、やっぱり、娘を東京に行かせるのは心配だ……」とぶつぶつ言っている。  ちなみに、梅太郎の話の中で桜子の可愛さのレベルが日本一→世界一→宇宙一とだんだん上がっていくのは、いつものことなのでだれもツッコミは入れなかった。     
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