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日本一かどうかはわからないけれど、小さな桜子は猫みたいな小動物っぽい雰囲気があり、とても可愛い女の子である。本当ならまだ小学生のはずの可愛い娘が旅立つことに、悲しんでおいおいと泣いてしまうのは、仕方ないことだろう。
「あなた、そろそろ妄想をやめて、泣きやんでください。旅立ち前の涙は不吉だと言うでしょう?」
桜子の母・藤子が小さな子供をあやすようにそう注意すると、梅太郎はズビビ~と鼻水をすすりながら「うん……わかった……」と言ってうなずいた。
「お父様、ごめんなさい……。わたしのわがままを聞いてもらって……」
梅太郎が泣いているのを見て、桜子は申しわけなさそうにうつむいてあやまった。
すると、背の高い美形の青年が桜子の頭をポンポンとなでて、「あやまらんで、ええんや」と言った。
桜子は、「お兄様……」とつぶやきながら、十歳年上の兄・杏平を見上げる。
杏平はいつも無愛想にだまっていて目つきも悪く、近所の小さな子供たちからは恐がられているけれど、口を開いたら意外にもおだやかな声で話す、優しいお兄さんなのだ。
「おまえは朧月夜家の大事な娘なんや。何も遠慮することなんてない。東京でやりたいことを見つけたおまえを応援するのが、オレたち家族の役目なんやからな。困ったことがあったら、電話でも手紙でもええから必ず連絡するんやぞ」
「……ありがとう、お兄様!」
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