祖父の遺品

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 スイが何を言っているのか、分からない。 庄一の頭は理解することを拒否している。ぐるぐるとスイの言った言葉がすり抜けていく。 何も言わない庄一に、スイが心配そうに顔を覗きこんでくる。 「……もう…一緒にこの山を歩けないのか…?」 震える声音で声を紡ぐ。庄一の反応に、スイも心が痛いのか、先程まで立っていた耳と尻尾が垂れ下がる。 「…うん…。ごめんね…」 謝罪の言葉に、ようやくスイの言っている言葉を庄一は理解した。 向かいの山は、遠い。だから、行ってしまったらもう会えない。 しかも、『結婚』するからだと? 結婚するのか? 妻を娶るのか、このスイが。 そして、スイはそのメスを、女を、抱くのか? ――――スイに、『俺の』スイに、女なぞ、抱けるのかっ?  激情が庄一の体を駆け巡った。その瞬間、これが『嫉妬』という感情で、自分はスイを――女を抱きたいと思う意味で―――好いているのだと理解した。 そして、スイの細い手首を乱暴に掴むと、そのまま山小屋の中に強引に連れ込んだ。 「っ、しょ…っしょういち?」 初めて見た怯えた金色の瞳に、庄一は苛立ちと共に、体が熱くなるのを感じた。
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