溶けない景色を一番にして

12/19
前へ
/19ページ
次へ
「……さむっ」  想わず、俺は呟いてしまう。  待ち時間の寒さは、動いている時の比じゃなかった。 「ほら、使えよ」  俊一がそうして俺に渡してきたのは、マフラーとホッカイロ。 「……ありがと」  小さく感謝の言葉を述べながら、そうした準備ができることに、うらやましさを感じる。  手元の暖かさを感じながら、二人とも、それからは口を閉じた。  ただ、ゆっくりと照らされていく、山の端だけを見つめていた。 「陽が、上がってきたな」 「うん」  俊一の言葉に、心のどきどきを感じながら、小さく応える。  本格的な日の出が、静かに、世界を照らしていく。 「……俊二。確かに、すごいな」  ――その時、俺は確かに。  ――ほのかな光と、汚れのない白の世界に、頭がいっぱいになった。  止まることなく、少しずつ変化する、周囲の色。  同じ、雪の白が広がっているはずなのに、違う。  光の差し方や、わずかに見える土の色。  かすかに変わる光の反射が、すぐに、輝きの違う景色を見せてくれる。 (この日、この時だけの、景色)
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加