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「……さむっ」
想わず、俺は呟いてしまう。
待ち時間の寒さは、動いている時の比じゃなかった。
「ほら、使えよ」
俊一がそうして俺に渡してきたのは、マフラーとホッカイロ。
「……ありがと」
小さく感謝の言葉を述べながら、そうした準備ができることに、うらやましさを感じる。
手元の暖かさを感じながら、二人とも、それからは口を閉じた。
ただ、ゆっくりと照らされていく、山の端だけを見つめていた。
「陽が、上がってきたな」
「うん」
俊一の言葉に、心のどきどきを感じながら、小さく応える。
本格的な日の出が、静かに、世界を照らしていく。
「……俊二。確かに、すごいな」
――その時、俺は確かに。
――ほのかな光と、汚れのない白の世界に、頭がいっぱいになった。
止まることなく、少しずつ変化する、周囲の色。
同じ、雪の白が広がっているはずなのに、違う。
光の差し方や、わずかに見える土の色。
かすかに変わる光の反射が、すぐに、輝きの違う景色を見せてくれる。
(この日、この時だけの、景色)
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