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「わかるよ。知ってるだろ」
俺のことを考えているから、なおさら、辛い気持ちになる。
「俊一は、よく見てる。周りをね。だから俺は、悔しいし、情けないんだ」
「……俺だって、そうだよ」
小さく、いつもは聞かない、低い声。
それが慰めの声じゃないと、双子の俺には、はっきりとわかった。
「あの、神社からの景色。たしかにキレイだって、想うけどさ。……俺は、危ないって、考えるんだよ。見る前から、大丈夫な景色を、選んでしまうんだ」
「選ぶ? 安全な方を?」
意外な言葉に聞き返すと、俊一はうなずく。
「お前は、独りで考えて、抱え込んでる時もあるよな。心配だけど……まっすぐに、この景色を見たいって踏み出せるのは、羨ましくもあるんだ」
「……考えなしだって、聞こえるけれど」
「確かに、隣にいると不安はあるけど。……でも、そこでしか見れないものって、やっぱりあるんだよ」
俊一の言葉は、あいまいで、よくわからない。
ただ……俺が見たかった景色を、否定していないってことは、感じられた。
「だから、そんなにうつむくなよ。こうして景色を見せてもらったのは、俺の方なんだからさ」
……今更ながら、そうして微笑む俊一の言葉に、後悔で胸がいっぱいになる。
危険をさせてまで、彼女の気を惹こうとした自分。
そんな自分の身勝手さに選ばれた、あの神社からの景色。
(もちろん、俊一に対しても)
どうしたらいいかわからなくて、カメラの入ったバッグを見つめる。
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