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※※※
帰宅した俺達は、家族にこっぴどく叱られて、おまけに風邪をひいた。
……結局、撮影した景色を、彼女に見せることはなかった。
あの日、俊一と切り取った景色は、心配してくれた彼女を裏切った証でもあるから。
――でも、それ以上に。
俺の心に、変化があったから。
次の日には消えてしまうかもしれない、自然の世界。
それらに魅入られたのは、あの日からだと想う。
春は、桜と風の清涼さ。
夏は、緑と青の鮮やかさ。
秋は、紅と橙の艶やかさ。
冬は、白と黒の静謐さ。
中学に入り、俊一がみんなの輪の中で生徒会長になっても、俺は変わらずに写真を撮り続けた。
独りであちこちをさまようその姿が、よほど変だったのか。
あの兄貴と比べてねぇ、なんて声も、たくさん聞いたけれど。
(ただ、俺が触れていたいのは、いつか消えてしまうかもしれない景色なんだ)
――そうこうしている内に、俊一と明美は、付き合い始めた。
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